2008年3月29日土曜日

第三十七回 -天皇を戴く社会主義-

戦前の日本において、共産主義はほとんど影響力をもちえなかった。その最大の原因は、彼らの用語で言えば、「天皇制の廃止」、つまり皇室をなくすることを掲げたこと(ロシア革命でいえば、皇室に繋がる人たちを皆殺しにすること)にある。このスローガンが、共産主義に対する国民の恐怖感を生み、さらには治安維持法を生んだことは、すでに述べたとおりである。

さて、こうした左翼の共産主義者、社会主義者の代わりに日本で大きく力を持ったのは、右翼の社会主義者たちの存在である。彼らは天皇という名前を使って、日本を社会主義の国家にしようと考えたのである。

戦後の歴史教育では、彼らのことを国家主義者とか軍国主義者というような名前で呼んでいるが、それでは本質は分からない。彼らは、あくまで右翼の社会主義者なのである。

この右翼社会主義思想を唱えた人に北一輝がいるが、彼の主著は『国体論および純社会主義』というタイトルで、まさにこれは〝社会主義のすすめ〟である。実際、この本が出たとき、日本の左翼思想家たちは諸手を挙げて、その主張に賛成したほどである。

1931年、右翼が集結して「全日本愛国者共同闘争協議会」という連合体を作った。そのときに決議された綱領を見れば、「右翼社会主義」の思想がよく分かるであろう。

<一、われらは亡国政治を覆滅し、天皇親政の実現を期す。>
彼らが言う亡国政治とは、議会政治のことを指す。腐敗・堕落した議会は日本のためにならないから、廃止して、天皇自らが政治を執るようにすべきだというのである。「天皇親政」とは聞こえがいいが、結局は、天皇の権威を借りて独裁政治を実現すべきだということである。

<一、われらは産業大権の確立により資本主義の打倒を期す。>
「産業大権」というのは、軍事における天皇の統帥権と同じように、産業に対する統帥権を確立すべきだという意味である。つまり、資本主義に基づいた私的財産権を大幅に制限し、土地を含むすべての生産手段を国有にせよというのだ。これが社会主義的な発想であることは、今さら言うまでもない。

<一、われらは国内の階級対立を克服し、国威の世界的発揚を期す。>
左翼も右翼も同じ社会主義であることは、ここで「階級対立」という概念が持ち出されていることでも分かる。資本主義と労働者の間にある貧富の差をなくすることは、右翼社会主義者にとっても重要な政策スローガンであったのだ。

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